真夏の高速3連戦、第二幕は期待以上のパワー勝負に

8月に入って最初の週末となった6日(日)、富士スピードウェイでは2017 AUTOBACS SUPER GTシリーズの第5戦が行われた。前回のSUGOでは日産勢が今シーズン2基目のエンジン、所謂Spec.2を4台一斉に投入してきたが、今回はホンダが#100 RAYBRIGのみSpec.2に換装してきていた。SUPER GTではレースコストが青天井で高騰しないよう、競技規則と技術規則で数々の制限が施されているが、シーズン当りのエンジン使用基数も制限されており、昨年までは年間3基だったが今シーズンからは年間2基に制限が強化されている。そこで気になるのはSpec.2の投入時期だ。SUPER GTシリーズは全8戦だから、一般的に考えるなら後半戦が始まる第5戦から、ということになるだろうし、第6戦の鈴鹿がレース距離1000㎞ということを考えるなら、第5戦までSpec.1で引っ張って、Spec.2は第6戦で投入、という作戦も考えられる。それどころか、あるエンジン技術者によれば「シリーズ中盤戦はリストリクターで絞られているはずで、エンジンにとってはむしろ楽な面もあるから、鈴鹿まで(Spec.1で)引っ張って、残り2戦を(ライフを短くした)スペシャルSpec.2でいく作戦も考えられた」とのこと。ちなみに、リストリクターというのは使用燃料の時間当たり使用料を制限する装置で、通常は95.0kg/hのところウェイトハンディの増量分によって、幾分絞られていくことが競技規則で決まっている。難しいことはさておき、リストリクターとウェイトハンディによって各チームのパフォーマンスがより均一化されていて、それがSUPER GTのレースシーンを大いに盛り上げていることは覚えておいてほしい。

ところで、前回のSUGOと今回の富士、そして次回、月末に行われる鈴鹿1000㎞を合わせて“夏の3連戦”と呼ばれているのはご存じだろうか。そもそもは80年代のF1GPで、フランスとイギリス、ドイツの3連戦を“高速3連戦”と呼んでいたのに倣って、国内のモータースポーツ専門誌で“真夏の高速3連戦”と呼んだのが初めてだったと記憶している。この時の3戦は7月末のSUGOと、8月中旬と下旬、2回の富士のこと。カテゴリーとしてはスーパーフォーミュラの(前身であるF3000のそのまた)前身のF2だったと記憶しているのだが、いずれにしても、舞台はまさに高速で、改修前のSUGOは、今のストレートエンドから直線的にハイポイントコーナーを目指すレイアウトだったし、富士もまたヘアピンの先にBコーナーが設けられたものの、ここを立ち上がるとあとは1コーナーまでフルスロットル! まさに高速3連戦だった。もっともF1GPの方もシルバーストンやホッケンハイムが改修前だったから、こちらの高速3連戦も、半端じゃなかったけれど、それも今は昔…。

先の大改修でテクニカル部分が増えたとはいえ、やはり国内屈指の高速サーキットである富士スピードウェイは紛れもなくパワー・サーキット。SUPER GT第5戦では興味深くもスリリングなバトルシーンが展開されていた。トップを行くARTAのNSXが単独で逃げ、その少し後方でNISMOのGT-RとCERUMOのLC500がテールtoノーズの超接近戦を繰り広げたのだ。ウェイトハンディで言うならGT-Rは52㎏相当(35kg+リストリクター1段強化)で、対するLC500は60㎏相当(同じく43kg+リストリクター1段強化)で、ほぼイーブン。セクター3で詰めテールに食らいつく格好で最終コーナーを立ち上がる石浦宏明のLC500だが、スリップストリームで追いすがるLC500を、コントロールライン手前からじわじわと引き離していく松田次生のGT-R。装着するタイヤもGT-RはミシュランでLC500はブリヂストンだから、自動車メーカーとタイヤメーカー、チームといった諸々の威信、そして何よりもドライバー自身のプライドを懸けた激しいバトルに、場内は興奮MAX状態となっていった。結局、2人のドライバーは最後の最後まで致命的なミスを犯すことはなく、そのままの順位でファイナルラップのコントロールラインを突っ切った。レース後の記者会見で、優勝ドライバーの野尻智紀と小林崇志…ともに初めての総合優勝で、ここに至るまでのドラマは枚挙にいとまがないのだが、それはまた別の機会に…が、「テレビ中継でもっと映して欲しかった」と苦笑したが、それほどまでに見事な2位争いのバトルだった。そしてそのバックグラウンドを理解すれば、もっともっと興味深く楽しめる。やはりレースは奥が深い!

ライター:原田 了