様々な作戦を導き出した2スペックタイヤ

秋晴れというよりも残暑の厳しさが戻ってきたような好天に恵まれた9月10日(日)、大分県日田市にあるオートポリスでは2017年全日本スーパーフォーミュラ選手権の第5戦が行われた。昨年は熊本大地震の影響からレースが中止されており、オートポリスでは2年ぶりのトップフォーミュラ。コントロールタイヤがヨコハマに代わり、また2スペックのタイヤが投入されるとあって前評判は上々。週末に1万5000人近いファンがサーキットに詰め掛け2年ぶりのハイスピードバトルを楽しんでいた。決勝では2スペックタイヤが様々な作戦を導き出すことになるのだが、果たしてどれが正解なのかは最後まで分からず、新たな魅力が生まれたと実感できた。

ミディアムと呼ばれる通常のタイヤに加えて、よりグリップ性能が高く、その反面でタイヤライフが短く設定されているソフトタイヤ。決勝では必ず、この2種を使用することがスポーティングレギュレーション(競技規則)で決められていたが、果たして決勝でどのくらい持つ(=十分なパフォーマンスを画期する)のか、に関してはどのチームにも事前のデータはなかったから、レースウィークに入って確認するしかなかったのだが、公式予選のQ1ではミディアムタイヤのみ使用できることが急きょ決定したために、各チームともに日曜朝までにロングランができず、スターィンググリッド上でもミディアムとソフト、いったいどちらでスタートすべきなのか各チームが悩むような状況だった。こんな場合はソフトでスタートし、タイヤのパフォーマンスが落ちてきたところでルーティンのピットイン。ガソリンを補給するとともにタイヤをミディアムに交換して残る半分を走り切るのが正攻法と言えたが、上位陣の多くはミディアムタイヤでスタートしている。レースを戦うストラテジーの要素としてもう一つ、スタート時に搭載するガソリンの量をどうするか、も気になるところ。当初の予測では、燃料補給なしではレースを走り切ることは不可能で、約10周分を給油する必要がある。となるとフルタンクでスタートしてラスト10周の段階で給油するのか、それともスタート時の燃料搭載量を減らして、比較的軽い状態で前半のスティントを走り、レース中盤に約10周分に加えて、スタート時に減らした分を補給するのか、も作戦の大きな構成要素となる。さらに前回のもてぎでトライされた2ピット作戦も考える余地がある。スタートまでに様々な戦略を考え、その中からベストなレースプランを導き出すのがチームの総合力、ということになる。

と、一通り予習をしたところでレースの展開だ。多くのドライバーが、まずはミディアムタイヤを装着してスタートに臨んだが、予選上位陣の中では5番手グリッドからスタートする#15ピエール・ガスリー/MUGENがグリッド上で直前に、ミディアムからソフトに交換していた。そのガスリーは好ダッシュを見せ、ポールスタートの#40野尻智紀/DANDELIONに続き2番手で1コーナーを立ち上がっていった。さらにもう一つジャンプアップしてトップに立ちたかったところだろうが、これは野尻がうまく防ぎ、ミディアムを履く野尻の後方でガスリーが隙を伺いながら周回を重ねる展開となる。そしてなかなかトップを奪えないでいたガスリーは23周を終えたところでピットに向かいガソリンを補給するとともにミディアムタイヤに交換する。まさに正攻法の作戦で、全車がピットインを終えたところでトップに立つと、そのまま走り切ってもてぎに続き2連勝を飾るk所とになった。ピットも手元計測12秒ほどでピットワークを終えていたことも見逃せない。一方、ミディアムでガスリーのチャージを防ぎ切った野尻だが、この1周で猛プッシュし翌周にピットインしてガスリーの前でのピットアウトを目指すのが定石だったが、ソフトタイヤのライフを考えてか、ピットインを遅らせるが、結果的にはガスリーに大きく遅れてピットアウト。さらにその直後のアクシデントで入賞圏外に去ってしまうことになる。

一方、予想外のストラテジーを展開したチームもあった。#7フェリックス・ローゼンクヴィストと#8大嶋和也を擁するLEMANSだ。ローゼンクヴィストが10番手、大嶋が15番手とグリッド後方に埋もれていたことも決断の理由だったに違いないが、朝のフリー走行でソフトタイヤのライフを確認、燃費もきっちりと計算したうえで、ミディアムでスタートし早めのピットインでソフトに交換する作戦を執ったのだ。確かに後方集団の中に埋もれてペースが上げられないでいるよりは、早めにピットインしてコースが空いたところにピットアウト。トラフィックを気にすることなく自分のペースで飛ばした方が速いに決まっている。ただし大嶋は6周終了時点、ローゼンクヴィストに至っては4周終了時点という早い段階でのピットインだったために、これは2回ピットインだろう、と多くの関係者が思ったほどだった。だがライフが短いといわれているソフトタイヤは最後まで安定したパフォーマンスを発揮。ガス欠にもならず、ローゼンクヴィストが2位、大嶋が3位でレースを終えている。

他にも2ピット作戦を執ったチームもあれば通常の1ピットながらスタート時の燃料を減らして車重が軽い状況でスタートした(と思われる)チームもあった。どこかシナリオ通りの展開から外れたのだろうか、結果に結びつくことはなかったが、観戦する側としては、チームのストラテジーを読む愉しみが増したことは間違いない。

表彰台
正攻法でレースを制し、前回のもてぎに続いて2連勝を飾ったガスリー(写真中央)と、一見奇策に見える作戦で2~3位を得たローゼンクヴィスト(同左)と大嶋(同右)のLEMANSコンビ。

#15ガスリーの走り
スタートでのジャンプアップ。ソフトタイヤで引っ張ること。インラップ/アウトラップの速さ。何よりもミスなくレースを走り切ること。様々な課題を見事にクリアしたガスリーが2連勝。ピットワークの素晴らしさが勝因の一つであることも間違いない。

#7ローゼンクヴィストの走り
早めにピットインし、ソフトタイヤで長い距離を走る。一見奇策で、一か八かのギャンブルにさえ見えたが、朝のフリー走行でタイヤと燃費はチェック済。データに裏打ちされたストラテジーでLEMANSコンビは揃って表彰台。3連続表彰台でローゼンクヴィストはランキング2位に。

ライター:原田 了