SUPER GT第8戦 もてぎGTグランドファイナル

久々に、週末が好天に恵まれた11月11~12日、栃木県茂木町にあるツインリンクもてぎでは、2017 AUTOBACS SUPER GTシリーズの第8戦、もてぎGTグランドファイナルが行われた。シリーズもいよいよ最終戦。GT500とGT300、両クラスのチャンピオンが決定するだけでなく、海外戦などをパスした数台を除くと、ほぼ全車がウェイトハンディを総て降ろした状態の、いわゆる“ガチンコ”のバトルが繰り広げられるとあって、多くのファンがサーキットに詰めかけることになった。

ライバルだけでなくチームメイトをも唸らせた、クインタレッリの圧巻の走り

 2009年以降、SUPER GTのもてぎラウンドは毎年のように、シリーズ最終戦として開催されてきた。日程的に多少の前後はあるものの、晩秋を迎えたこの時期は気温も下がってきて好タイムが続出するのが常だが、今年もまた、公式予選では好タイムが続出。GT500とGT300の両クラスともにこれまでのコースレコードを更新する好タイムが記録されることになった。中でも特筆すべきはGT500でNo.23 MOTUL AUTECH GT-Rのロニー・クインタレッリがQ2でマークしたタイムだ。

 そもそもGT500クラスは今シーズンからテクニカルレギュレーションが改定されており、それは速くなり過ぎたSUPER GTマシンのコーナリングスピードを引き下げるためにダウンフォースを約25%も減らそうというもの。当然、ラップタイムは遅くなるわけで、実際のところ、第6戦の鈴鹿以外ではGT500のコースレコードは更新されないままできた。ところが今回のもてぎでは、GT300だけでなくGT500でもコースレコードがマークされている。それがクインタレッリのマークした1分36秒316。

公式予選では10台以上、時には15台すべてがタイム差1秒の中にひしめき合うこともあるSUPER GTのGT500クラスとしては珍しく、クインタレッリは2番手となったNo.6 WAKO’S 4CR LC500の大嶋和也にコンマ9秒の大差をつけていた。8台が出走したQ2で、2番手の大嶋と8番手となったNo.17 KEIHIN NSX-GTの小暮卓史のタイム差はコンマ7秒。このことからも、クインタレッリの圧巻の走りが容易に想像できるだろう。ちなみにクインタレッリのチームメイトでありQ1で2番手につけた松田次生も、「36秒台には入ると思っていたけれど、まさか36秒台の前半まで削って来るとは…!」と唖然とした様子でコメントしていた。

一方GT300クラスでは上位4台が従来のコースレコードを更新している。こちらでの驚きは、Q2でトップタイムをマークした片岡龍也がGT500とGT300を通じて初のポールタイムをマークしたことに対するものだった。すでにベテランの域に達したとされる片岡は、ポールポジションを獲得したことは何度もあるのだが、自らがポールタイムをマークしたのはこれが初めてだった。

横綱相撲でレースを制した23号車とキッチリタイトルを奪った37号車

ローリングラップの最終コーナーで、予選2番手の大嶋和也(No.6 WAKO’S 4CR LC500)がポールのロニー・クインタレッリ(No.23 MOTUL AUTECH GT-R)に追突するハプニングで、決勝レースは始まった。このアクシデントでは6号車がフロントに大きなダメージを負い、この日の勝負権だけでなくタイトルの可能性まで失うことになり6号車とLEXUS勢にとっては不運な幕開けとなった。一方、23号車もリアの一部を壊したものの、「変な振動もなくクルマのバランスが悪化することもなかった」とクインタレッリがコメントしたように、まるで何もなかったかのようにレースを続けることになった。そしてローリングを終えた瞬間にロケットスタートを見せ、2番手以降を大きく引き離すことに成功したクインタレッリはそのまま快走。2位以下に着実な差を保ったまま、24周を走り終えてルーティンのピットイン。ピットワークには定評のある“NISMOピットマンズ”が完璧な仕事ぶりで、松田次生に交替した23号車を、事実上トップのままレースに送り出すことになる。替わった松田も安定して速いペースで周回。全車がルーティンのピットインを終えた段階ではトップに返り咲き、そのまま快走。2位に6秒の差をつけてレースを走り切り、遅ればせながらの今季初優勝をポールtoウィンで飾った。

ローリング中のアクシデントによりペースが上がらなかった6号車をかわして2位に進出したNo.37 KeePer TOM’S LC500は、ニック・キャシディから平川亮へと繋いで2位をキープ。シーズン3勝目とシリーズチャンピオンの両方を狙えるポジションではあったが、23号車の完璧なレース展開の前では3勝目を諦めてもシリーズチャンピオンを、ということか。こちらも安定したペースで走行を続けて2位でチェッカー。タイトルを決定した。予選ではQ2進出を果たせず9番手グリッドからのスタートとなったNo.38 ZENT CERUMO LC500はスタートを担当した立川祐路が早目にピットイン。前方をクリアにして猛チャージで追い上げる作戦だったようだが、ロングラップを担当することになった石浦宏明が期待に応えて力走。キッチリ3位表彰台を奪ってシーズンを終えている。その後方では、No.17 KEIHIN NSX-GT(小暮卓史→塚越広大)とNo.100 RAYBRIG NSX-GT(伊沢拓也→山本尚貴)が、何度かポジションを入れ替えながらレース後半にはずっとマッチレースを続けていたが、結局17号車がNSX-GT勢のベストリザルトとなる4位入賞。100号車が5位で続いた。序盤は3位につけ、23号車のタイトル獲得をサポートするはずだったNo.46 S Road CRAFTSPORTS GT-R(千代勝正→本山哲)はルーティンのピットインでのタイムロスが大きく、下位に沈み、結局6位でゴールすることになった。

数々のバトルで見る者を魅了したGT300

直前のウォームアップ走行ではトップから11台がコンマ5秒の僅差。デッドヒートが期待されていた決勝レースは意外にも、穏やかな展開で進んで行った。ポールスタートのNo.4 グッドスマイル 初音ミク AMG(片岡龍也→谷口信輝)にNo.55 ARTA BMW M6 GT3(高木真一→ショーン・ウォーキンショー)が続き、No.25 VivaC 86 MC(山下健太→松井孝允)、No.11 GAINER TANAX AMG GT3(ビヨン・ビルドハイム→平中克幸)、No.33 D’station Porsche(スヴェン・ミューラー→藤井誠暢)の3台がNo.65 LEON CVSTOS AMG(黒澤治樹→蒲生尚弥)をかわして3~5位でオープニングラップを終え、以後は4号車が2位以下との差を拡げ、55号車と25号車の2位争いと、11号車、33号車、65号車の3台による4位争いが接近戦となっていった。

16周を終えたところでトップを快走していた4号車がルーティンのピットイン。タイヤ4本交換で41秒4と少し長めのピットストップの後に谷口に交替してピットアウト。しかしピットロードを行く4号車の背後には藤井に代わった33号車が張り付くようにコースインして行く。33号車はタイヤ無交換でピットインのタイムを短縮、さらに交換したタイヤが温まるまでペースの上がらない4号車をパスして、波乱の幕が上がった。次の周にルーティンのピットインを行った25号車と65号車もそれぞれリアとフロントの2本のみを交換、ピットストップを短くし、33号車の前でピットアウトしていく。さらに高木がロングラップを引っ張った55号車もタイヤ無交換でウォーキンショーに交替し、レース後半はこの5台が、実質的なトップ争いを繰り広げることになった。

最初は33号車・藤井のペースが速く、25号車・松井、65号車・蒲生をパスしてみせたが直後にペースダウン。実はフロントタイヤのパンクでタイヤ交換のためにもう1度ピットイン。これで権利を失うことになる。その後は25号車の松井と65号車の蒲生。元気のいい若手のライバル同士が接近戦を繰り広げ、それを後方にベテランの4号車・谷口がつけ、3台揃って55号車を追う展開となる。しかし25号車の松井はトラブルでもあったかペースが伸び悩み、やがて65号車の蒲生と4号車の谷口にかわされてしまう。25号車をパスして視界が開けた65号車の蒲生は、10秒ほど先を行く55号車のウォーキンショーを猛追撃。35周目に10秒あったギャップは40周目には7秒となり45周目にはテール・ツー・ノーズ状態まで近付いていく。やはりタイヤ無交換は厳しかったのだろう。46周目の最終コーナーで僅かにアウトに膨らんだ55号車・ウォーキンショーのミスを見逃さなかった65号車・蒲生は一気にインを差して2台はストレートを並走。1コーナーへのアプローチ手前で勝敗は決し、65号車・蒲生が逆転し、そのまま49周を走り終えてトップチェッカー。55号車に続いて3位チェッカーを受けたNo.4 グッドスマイル 初音ミク AMG(谷口信輝/片岡龍也)がGT300のダブルタイトルを決定した。

GT500のウィナーNo.23 MOTUL AUTECH GT-R
まさにNISMOらしい横綱相撲で今季初の優勝を飾ることになった。7月のSUGOで2基目のエンジンを投入して以来、シーズン開幕当初からは考えられないような巻き返しを見せてきたが、今回はその集大成となった。

GT500のチャンピオンNo.37 KeePer TOM’S LC500
開幕戦と前回のタイ。シーズン2勝を挙げた速さもさることながら、攻める時は攻め、守る時は守る、老練な手法も持ち合わせていた23歳の若手コンビが、コンサバなレースを戦い抜き2位入賞で嬉しい初戴冠を果たした。

GT300のチャンピオンNo.4 グッドスマイル 初音ミク AMG
タイトル獲得の可能性はフィフティフィフティ、と控えめに語っていた最強コンビだが、その分析は当を得ていた。ライバルの後退もあったが“苦労して”奪った3位入賞で、タイトルレースでは逃げ切りに成功した。

ライター:原田 了