見るものを楽しませる極意

2週連続して台風が列島に襲来した10月最後の週末、ツインリンクもてぎでは世界ツーリングカー選手権(WTCC)の第8大会「JVC KENWOOD Race of Japan」が開催された。台風22号の影響で悪天候に見舞われ、セーフティカー(SC)の先導で始まったメインレースは、一旦はリスタートが切られたが、雨が激しくなってSCが再度コースイン。さらに赤旗が提示されそのままレース終了となった。最初のフリープラクティスからシビックが速く、メインレースの上位グリッドを決める公式予選のQ3でもシビックを駆るノルベルト・ミケリスがポールを奪うことになった。さらにホンダとボルボの両ワークスの3台ずつが同時にスタート、2周してタイムを競うMAC3でもホンダ・シビックがボルボS60を圧倒している。決勝レースでもトップ8がリバースグリッドからスタートするオープニングレースこそ2番手グリッドからスタートした、つまり予選7番手だったシトロエンのトム・チルトンが優勝を飾ったものの、メインレースではポールからスタートしたノルベルト・ミケリスがライバルであるボルボのコンビを従えて優勝を飾っている。気になるシリーズポイントだがボルボのテッド・ビョークがランキングトップをキープしたものの今回のメインレースで優勝したホンダのミケリスが16.5ポイント差に迫り、残り2大会での逆転タイトルに照準を合わせることに。またマニュファクチャラーズでもホンダがボルボに対して18ポイント詰め、こちらも逆転タイトルを目指して残り2大会を戦うことになった。

前回の中国で初ポイントをゲット、期待の高まっていた道上龍は、ともに雨に見舞われた2回のフリープラクティスで、それぞれ3番手/2番手と好タイムをマークし、公式予選でも目標だったQ3進出を果たして5番手グリッドを確保。ただし物流のトラブルからスペアエンジンを使用せざるを得なくなり、決勝のオープニングレースでは最後尾からスタートとなったが素晴らしいスタートダッシュを見せてジャンプアップ。入賞のボーダーラインである10位前後でバトルを展開。激しくなる雨脚をものともせず抜かれたら抜き返す、まるでレースの原点のような激しいドッグファイトを繰り返し、10位チェッカーで2度目の入賞を果たしている。メインレースでは本来のポジションである5番手グリッドからのスタートで、ファンやチーム関係者の期待も一層高まったが、V字コーナーでブレーキトラブル…何かを挟んでしまったのか、ブレーキが完全にスティックした状態だった、という…からコースオフしてしまい、オフィシャルの手を借りてピットに戻ったものの、リタイアとなった。

レースは、その展開が天候などのコンディションによって左右されるケースが多い。特に今回のように激しい雨に見舞われると、文字通り水がさされたようにバトルはヒートダウンしてしまうのが通例だ。しかしサーキットでの格闘技、を標榜するWTCCだけあって、各所で激しいバトルが展開されていた。特に下位グループではその傾向が顕著。コーナリング中にちょこっと接触など茶飯。そしてやられたらやり返す。ただし弾き飛ばすのは論外だし、相手のラインを1本残しておくのもお約束。だから安心して見ていられるし、正直楽しかった。

この激しいバトルが恒例となっていることを証明しているのが、写真の看板。リペアタイムと呼ばれているオープニングレースとメインレースのインターバルでは、各チームがマシンの整備、というかバトルで壊した個所をリペアするのだが、ジョブリストとして作業のメニューを示すボードが示されている。その中にはちゃんとミラーを修理するボードが用意されている。つまりミラーが壊れるのは極々当たり前、という訳だ。リペアタイムに一般の観客がピットロードにアクセスできる訳ないから、いったい誰に見せるためのものかは定かでないが、この洒落心には思わず拍手。またグリッド上などでクルマをクーリングする際に小型のファンを使うのはどんなレースでも見慣れた光景になっているが、シトロエンを使用するセバスチャン・ローブ・レーシングでは写真のようなファンをオリジナルに製作。使用している際にもスポンサーのロゴが現れるような心遣いにも★ひとつ。さらにスタート進行では、ピットロードエンドで各ドライバーがスタート練習をしながらグリッドに向けコースインして行くのだが、グリッドウォークのお客さんが本コース上でこれを間近に楽しんでいた。正確なところは分からないが、多分もてぎのオフィシャルの一存では出来るはずもないから、WTCCにおけるファンサービスのひとつなのだろうと感心した。グリッドにファンを入れることの是非は確かに気になるところだが、ファンサービスとしたら、これは間違いなく最高のサービス。確かにWTCCには見るものを楽しませる極意があった。

レース1のスタートシーン
レース1ではリバースグリッドを使用するから、ホンダとボルボの2大ワークスではなくシトロエン(写真左端)やラーダ(同左から2台目)がフロントローからスタートすることもある。今回はスタートで飛び出したトム・チルトンがそのまま逃げ切って優勝したが、通常は最初から最後までバトルしっ放しのことが多い。

雨の中で速さを見せた道上
昨年のもてぎでスポット参戦ながらWTCCデビュー。今シーズンはフル参戦で世界中を転戦してきた道上龍だが、毎回毎回、初めて走るコースに悩みが尽きなかったようだ。しかし今回のもてぎは、20年前に完成した当時から走り慣れていたコース。その分期待も高く、それがプレッシャーになったと言うが、フリープラクティスから公式予選では充分な速さを披露。後方グリッドからスタートしたオープニングレースではライバルに一歩も引かないバトルでの強さも発揮した。間違いなく今後に繋がる1戦だった。

クーリングファンにも一工夫
セバスチャン・ローブ・レーシングで使用するクーリングファンはチームのお手製だが、スポンサー対策で一工夫。クーリングファンを使用している時も、ちゃんとスポンサーのロゴは表示されている。

リペアタイムのジョブリスト
No.63ニッキー・キャッツバーグ(ボルボ)のクルマは、リペアタイムにブレーキローターとパッドを交換し、ミラーを修理。そしてクリーンアップ。これがジョブリストだが、ミラーを修理(って言うかレース中に他車と接触して取れたからつけ直す!)するのがルーティンワークとなっているレースって、どうよ!

コースインして行くマシンを間近で!
レースのスタート進行が始まり、グリッドに向けてコースインして行く各車はピットロードエンドでスタート練習を行うのが通例。それを間近、しかも本コースの上から見ることができるのは、ファンにとっては堪らないサービス。WTCC恐るべし、だ。

ライター:原田 了