来年から開催される2つの耐久レースに期待高まる。

秋雨前線の影響か、不安定で肌寒い天候が続く中、まるで中休みの様に好天に恵まれた9月3日、富士スピードウェイではスーパー耐久レースシリーズ、通称“S耐”の第5戦、富士スーパーTECが開催された。イベントタイトルのサブネームにも示されたように、この日は10時間耐久レースとして開催され、早朝から夕方まで走りどおしのタフな戦いとなったが、多くのクラスで最終戦を待たずにシリーズチャンピオンが決定。今大会を好成績で終えたドライバー/チームや関係者にとっての喜びは、普段の大会以上に大きかったように感じられた。

さて、盛り上がったレースそのものはさておき、レースウィークの金曜日に、富士スピードウェイから来シーズンのS耐シリーズ戦の概略が発表され、国内では久しぶりとなる24時間レースとあって話題を呼んでいるが、奇しくも1週間前に鈴鹿では、これまでの鈴鹿1000kmを発展させた耐久レース・イベントとして鈴鹿10時間耐久レースに関する記者発表会が行われている。今回はその新しい、2つの耐久レースについて紹介しておこう。

ル・マンやデイトナ、あるいは最近ではニュルブルクリンクなどで知られる24時間レースだが、実は国内でもかつては開催されていた。スーパー耐久シリーズが、まだ前身のN1耐久を名乗っていた時代の1994年から2008年まで、北海道は十勝にある十勝スピードパークを舞台に争われていた十勝24時間レースを記憶しているレースファンは少なくないだろうが、さらに遥か昔の話をするならば、1967年と68年に富士スピードウェイを舞台に富士24時間耐久レースが開催されている。流石にまだ小学生だったから、富士の24時間は取材した訳ではないが、兄が買ってきた自動車雑誌の記事を読んでドキドキした記憶がある。トヨタ2000GTと、可愛いらしいトヨタ・スポーツ800が3台並んでチェッカーを受けるシーンは、オールドファンの郷愁を誘うに違いない。

現時点ではS耐シリーズ中の1戦として開催すること以外、まだまだ未定な部分が多い。そんな中、騒音対策として特別競技規則によって音量規制が実施されることが発表されている。実は24時間レースを開催する上で大きなネックとなっているのが、この騒音問題。近隣住民の方たちの理解を得るためには音量規制は避けて通れない関門の一つ。さらにオールナイトのイベントとして防犯対策にも配慮が必要となってくるだろう。もちろん、サーキットの照明設備など、レースをする上でのインフラ整備も大きな課題となるだろう。これらを一つ一つ解決していくのは簡単ではないだろうが、国内で再び24時間レースを軌道に乗せるために頑張ってほしいものだ。

一方、鈴鹿で開催予定の10時間耐久は、FIA-GT3の世界一決定戦を謳っているのが大きなトピックだ。そのためにブランパン・シリーズなど世界中で手広くFIA-GT3によるレースシリーズを展開しているステファン・ラテル・オーガニゼーション(SRO)や国内で最も人気の高いSUPER GTを統括しているGTアソシエイション(GTA)などとタッグを組み、世界中の主要GTレースシリーズのトップランカーを招聘するプランも進められている。富士に比べてより市街地に近いことから、鈴鹿では最初から24時間ではなく昼間…ライトを点灯してゴールするよう早朝から薄暮時までの10時間の耐久レースとしているようだが、もちろんこちらにも課題がなくはない。発表会で最も気になったポイントがコントロールタイヤのサプライヤー。ブランパンGTシリーズなど多くのシリーズでコントロールタイヤを供給しているピレリが、この鈴鹿10時間耐久でもコントロールタイヤを供給することになったのだ。別にピレリのパフォーマンスを疑う訳ではないが、ピレリには鈴鹿サーキットのデータが十分なのだろうか、と心配せずにはいられないのだ。もちろんF1GPのタイヤサプライヤーでもあり、日本GPのサーキットサービスなどでも鈴鹿サーキットのコースについてはデータもあるだろうが、今回の10時間耐久は酷暑で知られる真夏の鈴鹿。これまでに何度も、壊れたタイヤがレースの行方を左右したことはレースファンならよくご存じだろう。SUPER GTのようなコンペティションではなくコントロールタイヤであるという事情はあるが、余計なお世話とは知りつつも、是非とも十分なテストを行い、真夏の鈴鹿に相応しいコントロールタイヤを開発してほしい、と思っている次第。もっとも、鈴鹿サーキットでもその辺りは織り込み済みで、タイヤトラブルでレースが台無しにならないよう、ピレリとの契約条項の中に盛り込まれているとのこと。

いずれにしても2つの耐久レースが開催されることは、レースファンにとっては嬉しいビッグニュースだ。どんなメンバー/チームとクルマが集まり、どんなバトルが展開されるか? オフの話題にも事欠かないはずだ。

16年S耐富士ラウンドのスタートシーン
昨年のS耐富士ラウンドのスタートシーン。今年は50台を超えるエントリーとなったが、果たして来年は?

17年ブランパン・アジア鈴鹿のスタートシーン
今年初開催となったブランパン・アジア鈴鹿ラウンド。FIA-GT3による世界一決定戦となれば今から期待が膨らんでくる。

67年富士24時間のチェッカー・シーン
今からちょうど50年前に行われた67年富士24時間耐久レースのチェッカー・シーン。2台の精悍なトヨタ2000GTと、愛らしいトヨタ・スポーツ800がそろってチェッカーを受けるシーンは、子供心にも強烈な印象が残っている(写真提供:富士スピードウェイ/三栄書房)。

67年富士24時間の夜間シーン
コース上をヘッドライトの光の帯が流れる、24時間レースならではのシーン。67年富士24時間レースでのワンカット(写真提供:富士スピードウェイ/三栄書房)。

ライター:原田 了