難解な面白さを、現場でどう伝えるのか?

天高くまで晴上がった9月24日(日)、宮城県は仙台市近郊、村田町にあるスポーツランドSUGOでは2017年全日本スーパーフォーミュラ選手権の第7戦が行われた。第5戦のもてぎ、そして前回第6戦のオートポリスと2戦続けて2スペックタイヤが用いられ、新たな戦略も生まれてますます面白さを増してきたスーパーフォーミュラだったが、今回は1スペックに戻されていた。果たして、1スペックタイヤでレースはどんな展開になるのか、様々なイメージが湧く中、レース展開が単調になるのではないか、との懸念もあったが実際には、3.704kmコースを68周に渡って内容の濃いバトルが展開され、詰めかけた多くのファンの期待に応えた格好となった。

今回のレースフォーマットでは、レース中の給油作業義務はないとされていたが、燃料タンクを満タンにしてスタートしても6周分くらい(約10ℓ)はガソリンが足りない計算となっていた。だから満タンスタートで、途中ピットインして6周分を給油するというのが、このレースを戦う上での正攻法だった。ただし、正攻法ではあるけれども、この不足分をどのタイミングで給油するのか、がレースにおける作戦の“キモ”となった。さらに給油のタイミングだけでなく給油量も作戦の要素の一つ。確かに、満タンでスタートすれば6周分を給油するだけでいいのだが、スタート時に燃料を少なくして=車体を軽くして序盤からハイペースで飛ばし、途中ピットインして6周分+スタート時に少なかった分を給油する作戦だってある。もちろんピットタイミングは限られるが。

一方、1スペックのタイヤも作戦を左右する要素になる。今回使用されたタイヤはミディアムタイヤと呼ばれるもので、1レースを走り切るには充分なライフを持っているから、タイヤ交換の必要はないのだが、それでもフレッシュタイヤに交換できるなら、パフォーマンスを引き上げる、つまり、より速いペースで周回することが可能になる。6周分を給油するのに必要な時間は約6秒で、この間にタイヤ交換できるとしても1本のみだから、あまりうま味は大きくないが、例えば4本交換に必要な時間(約14秒)を使えば4本交換も可能。だから約14秒で給油できる量(約28ℓ)から6周分を除いた約18ℓだけ(満タンから)差し引いてスタートすれば、最も効率よくタイヤ交換してレースを走り切れる計算になる。ただし、セーフティカーが導入されたらすべてご破算だ。

このように、レースの本番スタートを控えてチームでは、様々な作戦を立案し、その一つ一つのメリットとデメリットを判断。最終的にその日の作戦を決めることになるのだが、ここまではあくまでも机上の論でしかない。例えば最近のレーシングカーは空力を重視して設計製作されているから、前を行くクルマのテールに食らいついてしまうとダウンフォースが抜けてコーナーでは不安定になってしまう。だから多少ペースが速くても、前を行くクルマをパスするのは容易ではない。本来ならばもっと速いペースで走れるクルマも、前を行くクルマのペースが遅ければ、そのペースに合わせて走るしかないから、例えばこれがレース中なら、ピットインのタイミングを変更し、予定よりも早くピットインを済ませ、前方がクリアな状態で走る方が正解となる場合も少なくない。もちろん、ピットアウトしていく場所がどうなのか? そこが渋滞の真っただ中だったら、即アウトなのだが。

こうした様々な作戦の綾を読み解くのがレース観戦の醍醐味だ。我々取材する立場の人間にとっては、メディアセンターと呼ばれる取材場所があり、映像のモニターに加えてタイミングモニターが用意され、各車のラップタイムや区間タイムが一目瞭然。だからレースが中盤になって、見た目の順位で#15ピエール・ガスリーと#37 中嶋一貴が接近戦を繰り広げながら1-2を快走していても、ルーティンのピットインでポジションを下げた#19 関口雄飛のラップタイムとトップとのギャップを見ていると、これは全車がルーティンピットを済ませた段階ではトップに返り咲くだろうなと判断できた。またラップタイムのペースから#7フェリックス・ローゼンクヴィストが前戦と同様、無給油作戦で走っているのだろうな、とか今回は#18 小林可夢偉や#16 山本尚貴も、もしかしたら無給油作戦をトライしているのかな、などと予想も立てやすい。そして実際、予想分析した通りの作戦だったことが分かったのだが、やはり最後に来てガソリンが不足気味になり、ペースダウン。給油のタイミングは様々だったが正攻法で給油した#19 関口と#15ガスリー、#37 中嶋がトップ3でチェッカーを受けることになった。

ところで、観戦のためにサーキットに詰め掛けていた熱心なファンの人たちや、あるいはテレビ観戦した人たちには、この面白さが完全に伝わっていたのだろうか、と少し不安になった。というのもタイミングモニターがなければ我々だって、ここまで事細かに、そしてレースとリアルタイムで分析できただろうか、正直自信はない。かつてはメインスタンド最上段の桟敷席で、持参したストップウォッチを片手に連番(目の前を通過した車両のゼッケンを書き連ねたもの)を取りながら、タイム差も書き込みながらお手製のラップチャートをつけて取材していたものだが、昨今のメディアセンターでの安楽な取材に慣れた身には、もうタイミングモニターなしでの取材は覚束なくなってしまった。どうすればお客さんに、このワクワク感を伝えられるのか…、などと思っていたが、スマホを使ってタイミングモニターを見ることができるアプリがあるのだそうな。デジタル音痴には想像の域を飛び越えてしまうのだが、青空の下、タイミングモニター(を見ることができるスマホ)を片手にエキゾーストノートに酔いしれながらレースを観戦する。これがサーキットでの新しい観戦スタイルになるのだろうか…。

表彰台
昨年に続いてSUGO2連勝を飾った関口(写真中央)と2位のガスリー(写真左)、3位の中嶋(同右)。今回は正攻法が奇策を封じた格好で、ともに逆転チャンピオンを目指して最終戦に挑むことになった。

#19関口
給油で些細なミスがあり、終盤には少しペースを下げたところもあったが、最初から最後まで韋駄天走りを見せた関口。そう言えばチームを率いる星野一義監督の現役時代はぶっちぎりで勝つのが“星野パターン”だった。

#7ローゼンクヴィスト
前戦のオートポリスに続いて、今回の無給油作戦でレースを走り切ったローゼンクヴィスト。追随するライバルもいたが、無給油で走り切った中では最上位の5位。4戦連続表彰台は逃したものの、ランキング3位で最終戦に臨むことになった。

ライター:原田 了