『強いものが勝つのではなく勝ったものが強いのだ』とはサッカーの元ドイツ(当時は旧西ドイツ)代表、“皇帝”とも称えられるフランツ・ベッケンバウアーさんの名言で、転じて『ラグビーでは強いチームが勝つが、サッカーでは勝ったチームが強い』などともいわれるようになった、という。それになぞらえて、今回のレースを表現するなら、『勝ったチームの作戦が正解だった』ということになるのだろうか…。
スタート直前、各車両がグリッドに着いた後に雨が降り、完全なウェットコンディションでのスタートとなった。雲間から青空が見え始めたから、やがて陽が射し始め、コースは乾いていくに違いない。ただ、そのタイミングが問題だ。レースは66周。ドライバーの最少周回数は、その3分の1と決められているから、21周を走り切る前にタイヤ交換でピットに入ったら、通常の(ドライバー交替を含む)ピットインをもう1回しなくてはならない。スタート時のウェット状態で、レインタイヤに比べてスリックタイヤだと、もちろん遅くなるのだが、そのタイム差(落ち幅)はどのくらいなのか。一方、レインタイヤはレインタイヤでコースが乾いてくると消耗が大きくタイムもさらに落ちてしまう。様々なファクターが入り乱れているから、グリッドに並んだ各車の、作戦は、それこそ千差万別、十人十色。実際、ウェットがマストと思われるコンディションの中、果敢にスリックタイヤでスタートして行こうとする車両も数台いた。彼らの作戦も結果的に完璧な正解とはならなかったが、それでも不正解と切り捨てるべきではなく、部分点として評価すべきところも、間違いなくあった。
GT500で優勝したNo.37 KeePer TOM’S LC500は、まさに正攻法。ウェットタイヤでスタートし、コンディションの変化(コースの乾き具合)を見ながらベストと思われるタイミングでドライタイヤに交換する。それがスタートから21周(ドライバーの最少周回数)を過ぎていたなら、そのままドライバーも交替して通常のピットインに切り替えるが、それより速くコースが乾いてきたならピットインはタイヤ交換とルーティンの2回。彼らの作戦を要約するとそうなったはずだ。一方、GT300のウィナーであるNo.51 JMS P.MU LMcorsa RC F GT3の作戦は、少し違っていた。ウェットタイヤでスタートし、ドライバーの最少周回数(GT300はGT500に周回遅れにされるから、21周よりは幾分少なくなる)を走り、ルーティンのピットインでウェットからドライに交換する作戦だったようで、実際、スタートを担当した中山雄一は、GT500のトップが21周を終えた直後、自らは18周を走り終えたところでピットイン。交替した若い坪井翔が43周もの長い距離をタイヤをマネージメントしながら走り続ける必要があった。
こうしてみるとウェットタイヤでスタートし、途中でドライタイヤに交換する、というのは同じでも。GT500とGT300それぞれのウィナーの作戦は異なっていた、ということになる。もちろん、作戦が正解となるためには、ドライバーは想定されたタイムでミスなく走り続ける必要があるし、ピットインの際の作業もミスなく最短時間で終える必要があるのは言うまでもない。やはりレースはチーム総出の団体戦。改めて痛感させられた、雨のち曇り、表彰台には晴れ晴れとした顔が揃った、タイはチャン国際サーキットでの1戦だった。
GT500のウィナーNo.37 KeePer TOM’S LC500
まさに正攻法。コンディションなりに走り、その時点その時点でのベストを尽くしたNo.37 KeePer TOM’S LC500。若いドライバー2人のキレた走りに素晴らしいピットワークも奏功。開幕戦以来の2勝目を挙げ、ポイントリーダーとして最終戦に臨むことになった。
GT300のウィナーNo.51 JMS P.MU LMcorsa RC F GT3
最も効率良いレースを組みたてクラス2勝目を挙げたNo.51 JMS P.MU LMcorsa RC F GT3。ウェットコンディションをミスなく、かつスティント後半ではタイヤを労わりながら走った中山のしたたかさ。さらにロングラップをタイヤマネージメントしつつ走り切った若い坪井の巧さが光った。
ライター:原田 了