予選のみからでも垣間見えてきたドライバーの凄さ

台風21号と総選挙に揺れた10月21~22日、鈴鹿サーキットでは2017年全日本スーパーフォーミュラ選手権の第7戦・第16回JAF鈴鹿グランプリが開催された。台風による悪天候を考慮して、21日の土曜日にフリープラクティスと公式予選のQ1を行った時点で、その後のスケジュールがすべてキャンセルされることになった。そのために最終戦までもつれ込んだチャンピオン争いは、呆気ない幕切れとなったが、前日(金曜日)の専有走行と、当日(土曜日)のフリープラクティス、そして公式予選のQ1、と3回の走行セッションは総て雨に見舞われたが、そこではドライバーたちの凄さが垣間見え、それだけでも観戦する価値があったように思う。

先ずチャンピオン争いについて触れておこう。最終戦を迎える段階でランキングトップは#2 石浦宏明。獲得ポイントは33.5ポイントで、石浦から僅か0.5ポイント差で#15ピエール・ガスリーが2番手につけ、以下#7 フェリックス・ローゼンクヴィスト(トップとは5ポイント差)、#19 関口雄飛(同8.5ポイント差)と続き、ここまでの4人が自力チャンピオンの可能性を残していた。ランキング5位以下の#37 中嶋一貴や#36 アンドレ・ロッテラー、#18 小林可夢偉、#1 国本雄資の4人は、数字的に逆転の可能性は残っているものの、先ずは自らが優勝したうえで、ランキング上位陣の結果次第となり、正直言って逆転タイトルには黄信号が灯っていた。

スーパーフォーミュラのレースウィークは金曜日の午後、1時間の専有走行で始まる。それは今回も変わりなかったが、雨にたたられウェットコンディションとなったことが大きなエポックとなった。4月の開幕戦でも鈴鹿が舞台になっていたが、この時は全セッションがドライコンディション。その1か月半前に行われた合同テストもドライコンディションだったから、鈴鹿のウェットコンディションは今年初めて、ということになる。もちろんこれは全員が同じ条件だが、今シーズン、初めてスーパーフォーミュラを戦うために来日した2人の外国人ドライバー、ガスリーとローゼンクヴィストにとっては、雨の鈴鹿自体が初めてということになる。

「速いドライバーは、どんなクルマでも速い」とはよく聞くフレーズだが、雨のサーキットでは(ドライコンディションの時とは)また違ったレコードラインがあり、そのレコードラインを以下に早く見つけ出すかも問われることになる。「たった数周走っただけで、雨のラインを見つけてる!」。これはF1GPだったか、鈴鹿1000kmだったか、はるか昔のことで詳しい経緯などは忘れてしまったが、ともかく初めて鈴鹿にやってきたドライバーの走りを見て、鈴鹿在住で、何度も全日本チャンピオンに輝いたことのあるレーシングドライバーのコメントだが、速いドライバーは雨の中を数周走っただけで、また別のレコードラインを見つけ出すことができるようだ。

ガスリーは、F1日本GPの際に金曜日のフリープラクティスで雨を経験したことがあるとも聞いているが、いずれにしても数ラップ走った程度のようで、雨の鈴鹿は初めてと言っても良いだろうし、ローゼンクヴィストは間違いなく初めてのはず。そんな2人が金曜日の専有走行で、走り初めて数周でトップから、僅か1秒余りのタイムをマークしていることに、まず驚かされた。もちろん、専有走行ではチームごとのメニューに則って走行している訳だし、何よりもウェットセッションではコンディションが絶えず変わっているから、単にタイムが遅いから「クルマが仕上がってない」とか「ドライバーが乗れてない」との評価は早計だが、トップタイムの1秒落ちで走っているなら、クルマの仕上がりとドライバーのドライビングスキルは全く問題ないレベルだと思う。

もうひとつ、鈴鹿の最終戦、赤旗で何度もセッションが中断された公式予選のQ1で、改めて驚かされたのが、ロッテラーの凄さ。実は前回のSUGOでは彼自身の些細なミスから下位に低迷し、冒頭でも紹介したように、タイトル獲得には黄信号が灯っていた。さらに何度も赤旗でセッションが中断され、もう集中力はズタズタのはず、と思われた。ところが、ここ一発のタイミングで一気に集中力を高めてトップタイムをマークして見せたのだ。思わぬトラフィックに突っ掛かることがなければセカンドベストでもトップタイムで2レースともにポールを獲れていたかもしれないのだから、その強さ、凄さには恐れ入る。実は彼が初めて来日しNAKAJIMA RACINGでフォーミュラニッポン(スーパーフォーミュラの前身)にデビューした当時から、間近で見ていて、彼の速さは分かっていたつもりだったが、恐ろしいまで磨き上げられた速さと強さに改めて脱帽した次第。日曜日のレースがキャンセルされたことは残念だが、予選の僅かな時間でも、こんな感動がある。レースはやはり素晴らしい!

#15ピエール・ガスリー
ほとんど初めてとなった雨の鈴鹿で、いきなりトップクラスのタイムをマークしたガスリー。GP2のチャンピオンにして、デビューシーズンのスーパーフォーミュラでも2勝を挙げてチャンピオン争いを繰り広げるなど、そのパフォーマンスは明らか。来年は、彼がフル参戦することになるF1もチェックしなきゃ。そう思わせる逸材だ。

#36 アンドレ・ロッテラー
デビュー当時から光る速さを見せていたロッテラー。フォーミュラニッポンからスーパーフォーミュラ、そしてスーパーGTと国内のトップカテゴリーで揉まれた後、WECのワークスチームからお呼びがかかり、さらにそのパフォーマンスを磨きあげた。速さだけでなく強さも兼ね備えた、紛れもないベストドライバーの一人。そして個人的見解だが、時にはミスもする人間らしさも魅力的だ。(ちなみに、この写真はドライコンディションで走った第2戦のもの。)

ライター:原田 了