スーパー耐久レースに、新たに導入された新カテゴリー、TCRに期待膨らむ

九州南部には梅雨明け宣言が出されて最初の週末、オートポリスではスーパー耐久レースのシリーズ第4戦が行われた。今シーズンのスーパー耐久レース、通称“S耐”には、新たなクラス(参戦カテゴリー)が新設されている。ひとつは、FIA-GT4車両を対象としたST-Zクラス。もう一方はTCR規格の車両を対象としたST-TCRクラスの2つがそれ。ただし前者は、ここまでまだエントリーがなくレースも成立していないが、もう一方のST-TCRクラスには開幕戦から、それぞれホンダ・シビック Type-RとAudi RS3をベースとしたTCR車両が2台ずつ参戦。鈴鹿サーキットで6月に行われた第3戦にはVW ゴルフGTIをベースとした車両も参戦しており、今後ますます人気が高まりそうな勢いを見せている。

まずはTCR車両について説明しておこう。これはツーリングカーレースの新しいトレンドとして2015年から行われてきたカテゴリー。GTの世界統一規定であるFIA-GT3によって、例えばブランパン・シリーズのように世界中で多くのGTカーレースが大盛況となっているが、TCRは言わばツーリングカー版のカテゴリー。1.75ℓ~2ℓのターボエンジンを搭載。12万ユーロ程度のキャッププライスの制限があり、何よりもシリーズの統括団体による公認制度があり、パワーが340馬力程度に抑えられ、また車体/エアロによるパフォーマンスの差に対しては重量や車高でイコール化を図る、いわゆるBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)が採用され、結果的にクルマとしてのパフォーマンスに大きな差はなくなっている。

ヨーロッパで始まったTCRは、メインシリーズに加えて、多くの国別に国内シリーズが立ち上がっており、スーパー耐久のST-TCRクラスは、言うならばTCRジャパン・シリーズ。シビックは、ホンダのワークスチームとして世界ツーリングカー選手権を戦うイタリアのJASスポーツが製作。一方、アウディRS3とゴルフGTIはVW・アウディ・グループのセアト・スポーツが製作。いずれも国内チームがそれを手に入れてレースに参戦する格好で、Hondaは早速これの支援を開始し、アウディ日本もレギュラー参戦する2台をカスタマーチームとしてサポートしている。

レース(スーパー耐久のST-TCRクラス)は毎戦のように大きな盛り上がりを見せていて、前半戦はアウディが予選で先制するも、レースラップでアドバンテージのあるシビックがこれを逆転して勝つ展開となってきた。今回の第4戦でもアウディ勢が予選1-2を奪い、2台のシビックがこれに続く格好となった。決勝では悲喜交々なドラマが繰り返されたが、アウディ勢が泣き、黒澤琢弥/石川京侍/加藤寛規組が第3戦の鈴鹿に続いて連勝(通算3勝)を挙げ、シビックの連勝記録を4に伸ばしている。たった4台のみだが、マシン・パフォーマンスが粒ぞろいなこともあって、バトルの激しさは他のクラスと同等以上で、表彰式でも大きな歓声が湧いていた。

こうして見ると、良いことばかりのようにも思えるTCRだが、その一方で懸念されていることもある。それはメカニックのスキル。レースに備えて完璧なクルマづくりをするのがレーシングメカニックの大きな仕事のひとつだが、もう一つ重要な仕事は、レースの現場で限られた時間&道具という厳しい条件の中で工夫してモノづくりを実践すること。しかしこのTCRはFIA-GT3と同様に“吊るし”で買ってきたレーシングカーを、全く改造することない…いや正確に言うなら改造することが許されていないから、当然、モノづくりのスキルを磨くことのできない、という訳だ。考えてみればSUPER GTのGT500クラスを戦うワークスマシンも、レースの度に(疲労した)パーツを交換することくらいしかできなくなっているし、スーパーフォーミュラも同様だから、今やレース界におけるモノづくりは絶滅危惧種のひとつと言っていいのかもしれない。それでSUPER GTではチームが(=レーシングメカニックが)手作りできる部分を残したJAF-GTやマザーシャシー(MC)車両を残しているのだ。スーパー耐久におけるTCRも、同様の危惧が残る。そこでSUPER GTにおけるJAF-GTやMC車両のような、手作り(改造)出来る範囲を残した車両を残し、BoPで両者のパフォーマンスを調整するようにしてはどうだろうか。レースが盛んになることは、長年、レースレポートで関わってきた人間としても大賛成だが、出来るならば職人技を持ったレーシングメカニックも共生できる、そんな明日のレース界であってほしいと願っている。