メルセデス・ベンツの歴史はクルマの歴史、を実感。
第3回目となった自動車博物館探訪記。今回の舞台は、前回紹介したBMW博物館のあるミュンヘンからクルマで3時間足らず、西北西に約240km離れたシュトゥットガルト。サッカーファンにはブンデスリーガの名門、VfBシュトゥットガルトのホームタウンとしてお馴染みかもしれないが、その名門チームが本拠地とするメルセデス・ベンツ・アレーナ(旧称ゴットリープ・ダイムラー・シュタディオン)に隣接するメルセデス・ベンツ博物館を先ずは紹介することにしよう。わざわざ“先ずは”と断わったのはシュトゥットガルトにはもう一つ、有名な自動車博物館があるから。言うまでもなくポルシェ博物館だが、そちらの紹介はまた次回、ということで。
BMW博物館を訪れた後、ミュンヘンからシュトゥットガルトに移動。一度、メルセデス・ベンツ博物館とポルシェ博物館をロケハンした後に郊外の安宿に投宿。おかげで翌日は、道に迷うこともなくスムースに博物館に到着できた。当時はまだスマートフォンがなくインターネットはパソコン(PC)が主流。ホテルによってはLANによってアクセスできるところもあったし、マクドナルドやガソリンスタンドで無料Wi-Fiが使えたが移動中にはなかなか困難で、ホテルでPCを使ってその日訪れる博物館の周辺を検索。クルマに乗ったら、後はロードマップ(大判サイズだったり判は小さいが分厚かったりする地図帳だから、正確にはロードアトラスと言うべきか…?)を片手に行程を進んで行くのが常だった。もちろん、カーナビは普及していたが、レンタカーでは有料オプションだったから、ケチケチ取材行では無縁の存在。スマホに、現地で購入したプリペイドシムを挿し込めば、国内と同様にグーグルマップの日本語ナビが使用できる現在からは、まるで考えられないような状況だった。
話を博物館に戻そう。先にメルセデス・ベンツ博物館を、メルセデス・ベンツ・アレーナに隣接する、と書いたが、これは半分正解だが、半分は正確でない。それまでダイムラー社の本社工場内の一角で細々営業していたメルセデス・ベンツ博物館が、現在のビルディングに移転したのは2006年のことだが、ここも本社敷地の一角。メルセデス・ベンツ博物館がメルセデス・ベンツ・アレーナに隣接する、のではなくメルセデス・ベンツ・アレーナが隣接するダイムラー社の本社工場の敷地の一角にメルセデス・ベンツ博物館がある、と言うべきだろう。
博物館のビルディングは、それ自体がまるで巨大なオブジェのような、特異なデザインとなっている。8階建てとも表現されているが、中は9層の展示フロアがあり、最初にエレベーターで最上階まで昇り、後はらせん状に展示フロアを見ながら降りてくるのが観覧コース。展示フロアには7つのレジェンド・エリアと4つのコレクション・エリアがあり、レジェンド・エリアは時代別に、そしてコレクション・エリアはテーマ別に展示車両が選ばれている。ちなみに2009年に最初に訪れた時に、歴代Eクラスが開催されていたエリアが、2015年に再び訪れた際には別テーマの展示となっていたから、展示車両とテーマは少しずつ変わっているということだろう。
自動車の父を自認するだけあって、メルセデス・ベンツの歴史はクルマの歴史、と言うことを表現したのだろうか、最初の展示スペースでは1885年式のダイムラー製2輪車と86年式のベンツ製3輪自動車が目を引いた。また乗用車だけでなく商用車、それも大型トラックまでラインナップしているダイムラー社らしく、商用車の展示も抜かりはなかった。Collection 2 Gallery of Carriersとネーミングされた展示エリアでは新旧様々な大型トラックや架装車が展示されていたが、中でも印象に残ったのは1955年式のMercedes-Benz High-speed Racingcar Transporter。
文字通りレーシングマシンを高速で運ぶトランスポーターだが1955年にツーリングモデルとしてラインナップされていた300Sをベースに、ワンオフで製作されたもの。完全に、前方にオーバーハングされたキャビンが特徴だが、その造形もまた独特のシルエットを持ち、主にレーシングカーの積載を考えてボディ各所にトランクボックスが内蔵されるなど、機能的にも充分考えられたデザインとなっている。地下1階にあるミュージアムショップでは、このクルマのミニチュアカーが人気商品のひとつとなっているようだった。
他にも様々なクルマが展示してあったが、変わったところでは1935年式のMercedes-Benz_770“Großer Mercedes”Pullman Limousineがある。これは昭和天皇の御料車でリアドアには菊の御紋が施されている。
また新旧様々のレーシングカーも興味深かった。最初に訪れた2009年には90年代のDTMカーを先頭に、まるで時代絵巻のように歴代のレーシングカーが並んで圧巻な眺めとなっていたが、2015年に再度訪れた際には、さらにその前方に数台が加わり、先頭には2010年式のDTM仕様のレース車両が並べられていた。ファンは必見だ。
メルセデス・ベンツ博物館/Mercedes-Benz Museum
・住所:Mercedes Straße 137, 70327 Stuttgart, Deutschland.
・http://www.mercedes-benz-classic.com/
・月曜休館。開館時間は09:00~18:00/入館料は€10.00
・アクセス:フランクフルト国際空港からアウトバーン(A6→A81)でシュトゥットガルト(Stuttgart)方面に向かう。約110㎞先、出口番号17番のミュンヘン-ツッフェンハウゼン(Stuttgart – Zuffenhausen)でA9を降り、分岐を左にとってB11で南東に向かう。約7㎞先の右手に博物館。フランクフルト国際空港から200㎞弱/2時間余り。ミュンヘン国際空港からは約240㎞/2時間半。
ライター:原田 了