秋雨前線の先ぶれか、それとも梅雨前線の名残か、不順な天候が続く中、8月20日(日)、ツインリンクもてぎでは2017年全日本スーパーフォーミュラ選手権の第4戦が行われた。前日の19日(土)の午後には予選が行われる予定だったが、Q1の途中から雨が酷くなり、Q2とQ3は急遽、日曜午前に行われるべくスケジュールが変更されるなど、チームやドライバー、そして関係者にとっては慌ただしいレースウィークとなった。決勝日も雨の予報が飛び交ったが、それでもスーパーフォーミュラの走行時間はドライコンディションが保たれたのは、ドライバーやチームはもちろんだが、何よりツインリンクもてぎに詰めかけたファンにとっては幸いだった。
ところで、今回の大会名で謳っている2&4とは2輪のレースと4輪のレースを同時開催すること。その起源は1975年の4月に鈴鹿サーキットで開催された『鈴鹿ビッグ2&4レース』だったと記憶している。高校生の頃からモータースポーツ専門誌の地方レポーターとして西日本のサーキットやラリーフィールドを飛び回っていて、鈴鹿のレースでも軽自動車のエンジンを搭載したミニフォーミュラ、FLレースのレポートも書かせてもらっていたが、当日、鈴鹿にいたのかどうかは定かではない。ちなみに当日の4輪レースはF3の前身であるFJ1300とFL500が開催されており、FJ1300ではマーチ・日産をドライブした長谷見昌弘さんが優勝。FL500のウィナーは、今やホンダ系のベテランドライバーとなった道上龍選手のお父様、佐堵史さんだった、と結果に残っている。当時、2輪の競技車両は2ストロークエンジンを搭載しており、燃え残ったオイルの噴霧(の一部)がコースに舞い降りてタイヤのグリップを損ねてしまう、と一部のドライバーからは不評だった。現役時代は日本一速い男、として知られ、今はIMPULを率いて日本一速い監督、とも呼ばれる星野一義さんは当時を振り返って「顕微鏡で見たなら、ああオイル(の微小な粒)があるな、とか雑巾でコースを噴いたら少し雑巾にオイルがつくくらい、本当に些細なレベルだったけど確かにグリップは低くなっていたよね」と当時を振り返ってくれた。
その2&4だが、今は2輪の競技車両も4サイクル化が進み、世界最高峰のMOTO GPも4サイクルに限られている。しかしその一方で、タイヤが高性能になった分、路面に張り付いた2輪用タイヤのゴムによる“悪戯”が問題となってきた。2輪の走行ライン上ではグリップが微妙に変化し、しかも2輪と4輪では走行ラインが微妙に異なるからある部分では通常にグリップするが、ある部分では少しブリップが変化する、という路面コンディションとなり、ドライバーにはシビアな操作が要求される、というのだ。そうした2&4ならではの難しさに加え、今回のスーパーフォーミュラではタイヤ2スペック制も盛り込まれているから、話はさらにややこしい。
(今回、ヨコハマは2種のドライタイヤを用意。手前の、サイドウォールに赤いストロボラインが入る方がソフト。)
ご存知のようにスーパーフォーミュラは昨年からコントロールタイヤが横浜ゴムのADVANレーシングタイヤに変更されている。1シーズン1スペックを基本としながら、昨年はもてぎでの1戦にだけ、ミディアムと呼ばれる通常のスペックに対して、少しグリップが高まるとともにライフが少し短く設定されたソフトタイヤが供給されていた。今年は、ソフトタイヤをより尖がったキャラクター=昨年のソフトよりもさらにグリップが高く、ライフもさらに短くなった新スペックに変更してきたのだ。ソフトタイヤは車両1台につき3セット供給されるから金曜日の公式練習では皮むきだけ。本格的なアタックは公式予選からで、しかもQ1で一部のドライバーがアタックしかけたところでウェットコンディションとなって、前述のようにQ2とQ3が日曜朝に順延。その結果、日曜朝に30分間予定されていたフリー走行が10分間に短縮されてしまい、誰ひとりとしてソフトタイヤのロングランをトライできないまま決勝レースを迎えることになったから、その困惑は一入だったに違いない。
それでも流石はトップドライバーとトップチームが顔を揃えたスーパーフォーミュラだけあって、決勝では見事なレース展開となった。各チームが最善と判断した作戦を遂行したが、もちろんそれにも当たり外れがあったし、ところどころに運不運が見え隠れし、さらにドライバーの些細なミスもあったようだが、それさえも勝負の綾に昇華させてしまうほど、52周(約250km)の決勝レースはタフで見応えのあるバトルが展開されたのだ。レース前に行われた予選会見では、決勝の作戦や展開の予想を訊ねられたトップ3が「(不確定要素が多過ぎて)展開は全く予測不能。作戦はもう出たとこ勝負」と口を揃えていたが、まさにドライバーのテクニックと、チームの総合力が試された1戦だった。そう言えば星野さんは、タイヤのグリップが微妙に変化するという最近の2&4に対して「総てのドライバーが同じ条件で戦っているのだから、コンディションがどうのこうのは関係ない。だって路温が上がったから予選を(同じコンディションになるまで)延期しましょう、ってことにはならない」と一喝。そして「皆、その時その時のコンディションに合わせてドライブするだけ。それで、どんなコンディションでも速い奴が一番になるし、金を稼ぐことができる。それがレースなんだよ」と括った。まさに納得だ。
その昔、モータースポーツ専門誌の編集部にいた頃、同じフロアーの隣の“島”にあった2輪スポーツ専門誌の編集部とは同居していたし、もともと2輪も嫌いな方じゃないから、フリーになっても2輪のジャーナリストやカメラマン諸氏とは、鈴鹿のモータースポーツファン感謝デーと、シーズン中の2&4で顔を合わせる度に話が弾んでいた。今回もメディアセンターで彼らと旧交を温めながら改めて、レースの素晴らしさを実感した次第。
(#2石浦。予選では天候に弄ばれる不運もあったが、決勝では結果的に作戦が大正解。自身のキレた走りも奏功し、17番手グリッドから望外ともいえる4位入賞でポイントリーダーの座を堅持した。)
ライター:原田 了